認知症(老人性認知症
と生活習慣性認知症)
2015.10


認知症という名前が一般的になりました。でも・・・ホントは症状名の「症」 ではなくどうしても認知という言葉を使うなら「認知障害」とすべきでしょう。・・・・が・・・・精神科領域ではすでに認知障害なる疾患名があります。痴呆状態は短期記憶の障 害などのため日常を認知できない訳ですから「認知不全症」「認知困難症」とすべきです。いずれにしても、厚生労働省や福祉関係のお偉いさんたちのオツムの 程度が知れています。とだけコメントしておきます。

一般的には「痴呆」の方が良く理解されていますのであえて痴呆という表現しますが、”痴 呆”をよく理解するための7大法則を列記します。ただし、お年寄りが入院などの急な環境変化に順応できずに、暴れたり不穏状態になる「せん妄」という現象は、「意識障害」ですので「痴呆」ではありません。

介護保険の専門家たち(皮 肉をこめて)にも、早急に「意識障害」と「痴呆」の違いを認識して欲しいところです。

●1)記銘障害に関する法則

「記銘力低下」「全体記憶の障害」「記憶の逆行性喪失」が本態です。
記銘力低下:
 とは新しいことを覚えることが困難になること。
全体記憶の障害:  とは大きな行為そのものの記憶を失ってしまうこと。
記憶の逆行性喪失: とは蓄積されたこれまでの記憶が、現在から過去にさかのぼって失われていく現象をいう。

●2)症状の出現頻度に関する法則

痴呆症状が、いつも世話をしているもっとも身近な人に対してひどく出て 、時々会う人には軽く出ることをいう。

●3)自己有利の法則

自分にとって不利なことは決して認めようとしないことをいう。

●4)まだらぼけの法則

痴呆性老人が常に異常な言動ばかりするかというと、そうではなく、正常な部分と呆けの 部分とが必ずまじりあって存在する。

●5)感情残像の法則

言ったり、聞いたり、行動したことはすぐ忘れるが感情の世界は しっかり残っていて、瞬間的に目に入った光が消えたあとでも残像として 残るように、痴呆性老人がそのとき抱えていた感情が相当時間続くことをいう。

●6)こだわりの法則

ある一つのことに集中すると、そこからは容易に抜け出せない。

●7)ぼけ症状の了解可能性に関する法則

上記1〜6法則にある、老年期のいろいろな知的機能の低下の特性を 考えれば、痴呆症状のほとんど全ては、そのお年寄りの立場に立って みれば十分理解できるものである。


治る認知症についての解説:

ホントに困っている認知症のうち重症のものは大変残念ですが治りません。しかしながら中等 症や軽症の認知症(MMS 15点以上)は、介護方法によっては絶対治るんだヨ。という概念で分類します。

高齢者認知症の90%は脳を余り使わないために起こる生活習慣による「老 化・廃用型」です。
●軽度(一日の計画が立てられない、漫然とテレビを見てしまう)、
●中度(今日が何日か分からない)、
●重度(今が何月か分からない
軽度、中度では、生活習慣を変えることによって痴呆は回復する可能性が高いということです。

金子らによると軽度、中度の認知症に「脳刺激訓練」(1回2時間。体操や歌唱、音楽鑑賞、対人間ゲームなどを楽しむ)
を月2〜4回続けてゆくと、過去5年の調査でも、症状改善54%、現状維持38%、悪化8%だっ た。

かつてアルツハイマー型認知症と呼ばれていた疾患の殆どは生活習慣型認知症であり、50代からの生活習慣で日曜に良く寝ている 等、普段から頭を使わない人に多いとの報告があります。責任ある職業を長年続けて引退した教師、公務員、重役、医師に起こりやすいとも言われています。

アルツハイマー病とアルツハイマー型認知症を加えると60%を超えるようになり、幻視を伴うレビー小体認知症が増えてきているのが特徴です。

軽度を含む認知症の比率は65歳以上で13%、80才代53%、90才代75%であり加齢と共に認知症は確実に増えます。仕事人間は退職2〜3年でボケ始める人が多い。北欧では80 歳代からで、日本人とは15年の差が有る。要するに、対人関係や趣味に変化を持つ感性のある人間はボケにくいとも言えます。

脳血管性認知症という言葉も、実は正しくありません。血管病変は進行性ではなく認知症とは言えず殆どは生活習慣性の因子が多いのです。これに対 して本物のアルツハイマー病は認知症患者の1%以下という低率で30〜 60代前半に発症する遺伝性を持つ若年発症が特徴。

ですから、生活習慣病とも言える認知症は重度になる前の軽症、中等症のうちに診断し治療を開始する必要があります。いいかえます が認知症は治らないのではなく、重度になると治るのは難しいが軽度・中度では方法によっては治る可能性が高い。最終的には医師の診断が必須ですが、以下の 方法で簡単に痴呆度合いがわかります。

             かなひろいテスト     MMS 
軽度認知症(小ボケ)    不合格        24点以上
中度認知症(中ボケ)    不合格        23〜15点
重度認知症(大ボケ)    不合格        14点以下

「かなひろいテスト」 とは3つ以上の作業を同時進行してどれだ けテキパキ出来るかを見る。

以下のようなかなばかりのおとぎ話の意味を読み取りながら「あ、い、う、え、お」が出てきたら全て拾い上げ 丸をつける。制限時間は2分。後で話のあらすじを聞かれ、丸を数える。不合格は50歳代で15個以下、60歳代では10個以下、70歳代で9個以下、80 歳代で8個以下。

「むかし あるところに ひとりぐらしのおばあさんが いて、としを とって、びんぼうでしたが、いつも ほがらかに くらしていました。ちい さなこやに すんでいて、きんじょの ひとのつかいはしりを やっては、こちらで ひとくち、あちらで ひとのみ、おれいに たべさしてもらって、やっと  そのひぐらしを たてていましたが、それでも いつも げんきで ようきで、なにひとつふそくはないと いうふうでした。
ところが あるばん、おばあさんが いつののように にこにこしながら、いそいそと うちへかえるとちゅう、みちばたのみぞのなかに、くろい おおきなつ ぼを みつけました。「おや、つぼだね。いれるものさえあれば べんりなものさ。わたしにゃ なにもないが。だれが、このみぞへおとしてったのかね」と、 おばあさんが もちぬしがいないかと あたりをみまわしたが、だれもいません。「おおかた あながあいたんで、すてたんだろう。そんなら ここは はなで も いけて、まどにおこう。ちょっくら もっていこうかね。」こういって、おばあさんは つぼのふたをとって、なかをのぞきました。」      (「い たずらおばけ」イギリス民話 瀬田卓二再話(福音館)より抜粋)

●「MMS(ミニ・メンタル・ステイツ)」は従来の知能テストに相当するもの。

見当識の時:「今日の日付は?」 「今いつなのか」の理解の程度      満点:5点 

見当識の所:「ここは何県何市?」 「ここはどこ?」の理解の程度      満点:5点 

記銘:三つの単語を聞かせ即座に繰り返してもらう。1単語の再生で1点。   満点:3点 

想起:検査を続けて行って5分後に「先ほどの単語を思い出してください」1単語の再生で1点。   満点:3点

注意と計算:「100から7を順に引いて行ってください」5回繰り返し。正解1個1点。満点:5点 

言語命名:鉛筆と時計を見せて名前を問う。                 満点:2点

復唱:「ちりもつもればやまとなる」と聞かせておいて直ぐに復唱願う。    満点:1点

三段階口頭命令:大小の紙を示し「大きい方の紙をとり、それを半分に折り、床の上に置いてください」と言って到達度を見る。            満点:3点

書字命令:「目を閉じてください」と書いてある紙を提示し、出来れば1点。

文を書く:「今貴方がここで何をしているか、簡単な文で書いて下さい」が出来れば1点。

図形の模写:一部重なった2つの5角形が描かれた図を見せて模写できれば1点。全部で30点となるが、24点以上なら正常範囲と判定するのだそ うです。尚最近の研究では「廃用性痴呆」は95%以上だそうで、アルツハイマーは2%以下だそうです。残りは脳の血管性(血栓等)による痴呆です。



所謂アルツハイマー型認知症(生活習慣型認知症)の治療:

認知症のお薬は以前はたくさんありましたが、薬効の再評価でどんどん消えてゆきました。今のところエーザイのアリセプトレミニール、メマリー、リ バスタッチ貼付剤。お薬の飲み方が少し変わっていて、少量から使用し、維持量で続けます。

もし中途で内服を中止したら、急速に痴呆状態が悪化することがあるので要 注意です。ご存じのことと思いますが、このお薬には「ジェネリクス」「後発品」とか「漢方薬」といった代替品がありません。ところ が老人医療に携わる施設(老人保健施設)や医療機関(療養型医療施設)では、経費節減という理由のためだけの理由で、このような高価で有用なお薬までも勝 手に中止することが多いのです。結果としてアルツハイマー型痴呆をどんどん悪化させているのです。

最近、アメリカでアルツハイマー型認知症以外に脳血管性認知症にも有効との報告がなされましたが、かなり良好なデータです。どちらも生活習慣型 の認知症ですから、効果があるのは当然です。ところが日本ではアリセプト保険適応がアルツハイマー認知症だけですから、日本では医療保険が効かないので、自費診療を受けると なると、目が飛び出るほど高いお薬になってしまいます。

厚生労働省の医薬品認可に係わるお役人が、天下りをして袖の下に関係なく国民のための医薬品認可をしてくれることを祈るのみです。

以上に加えて、厚生労働省は通所サービスや入所施設にパワートレーニングを導入するのではなく、脳機能訓練法を取り入れたサービスの導入を一刻 も早く実現して欲しいのです。

音楽療法、ゲーム療法など、現在では常識ですから・・・・・


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