ドロドロ血とサラサラ血
から見るQuackery
2005.8


Quackeryって単語をご存じですか。日本語に翻訳すれば「偽医療」「いかさま医療」のことです。昔は鍼灸など代替え医療のことを言いましたが、近年、東洋医学のツボ概念が西洋医学にも受け入れられるようになり鍼灸などの治療は偽医療からはずれるようになりました。現代では、「みのもんた症候群」に代表される、程度の低い医師たちによるうそっぱち医療情報の啓蒙のことをQuackeryと私が定義します。

最近サラサラ博士なる非科学研究者などがテレビなどマスコミで持て囃されていますが、ほんとにサラサラってそんなに良いのでしょうか。

みなさんは「血液サラサラ」と「血液ドロドロ」、ご自分の血液はどちらがいいとお考えですか?。

私はどちらもイヤです。人間にとってはその中間がいいと思っています。その昔「何事も中庸が好ましい」といった賢人がいましたが、サラサラ博士にこそ是非聞かせてやりたい。サラサラを美化しすぎるが故、納豆、タマネギ、リンゴをはじめとする有用食品に加えて、へんてこりんな健康食品まがいのお薬(実際には薬品でなく食品ですが・・・・)が巷に溢れかえっています。私たち医師の側からみれば、ドロドロ血の中でも高コレステロールや高中性脂肪、多血症などに起因する病態の方は、動脈硬化を引き起こしうる病態ですから、血液粘度を下げるべく治療されるべき対象ですが、多くの場合度を超してサラサラ過ぎれば出血傾向になり、逆にとても危険です。やはりサラサラ過ぎるのはいけないように思えます。

かつてアシカ、オットセイなどを主食にするエスキモーたちに脳出血死が多かったのは周知の事実でしたが、彼らの血液でさえ、現代エスキモーと比べてそれ程サラサラというわけでもなかったという報告があります。自動車のオイルでは無いのですから、詰まるかつまらないかは血管の機能をも含めたレオロジーで議論されるべきで、サラサラだけでは議論できないはずです。

サラサラ博士の言う「サラサラ」はあくまでin vitro試験管など機器上のデータ:お役人をはじめ非科学者はおしなべてこのようなデータに弱いのものであり、医学で最も大切なin vivo生体内のサラサラとは大きく変わることをまさかご存じないとも思えないのですが・・・・ホントの意味で頭が良くない学者様なののでしょう・・・・少なくとも医者や科学者たる者、素人表現や不正確な表現はやめた方がいい。ドロドロというのは、みのもんた程度の日本人の中の低レベル人間が言うのならともかく、科学者が言ってはおしまいです。あくまで血液の粘稠度のことで定量的に表す物理量は粘度(粘性率)のことですからネ。

言い換えますが、顕微鏡下で血液の流動状態を観察できるのは、十分に血液を希釈した時のみであります。血液を希釈すると血液成分間の相互作用は弱まり、生理的条件での状態を反映しないことになります。実際、血液が血管内を流れる場合には、ズリ速度は血管の部位で異なり、血管内皮細胞と血液細胞との相互作用、微小循環での赤血球や白血球の通過能などが血液の流動性に複雑に影響します。血液の流動状態をin vitroで評価した結果は、生体の中の血液流動を全く反映してはいないことを念頭に置く必要があるわけです。例えば貧血の人はもともと粘度が低い血液ですが、何故健常人と同比率で脳梗塞になるのでしょうか?

血液レオロジーという学問があります。血液の粘性を語る場合、血小板、白血球、赤血球、血漿といったそれぞれの成分の存在を無視できません。これらは、バラバラの状態で血管内を流れているわけではなく、各成分は密接に相互作用を起こしています。それらの相互作用を加味したうえで、血液がサラサラであるか、ドロドロであるかを擬似毛細血管を通して評価することが最も生体に近い状態での評価法だた間違った理論を展開したのがサラサラ博士の間違いなのです。ですから「ドロドロ血」とは生きた人間の反応ではなく、外界の冷め切った機械の中での数値のみの評価であるということです。

サラサラ博士の理論の全てがおかしいとまでは言いきりませんが、大部分(95%)は間違っていることになります。このサラサラ博士が実験に用いたMicro Channel Array Flow Analyzer(MC-FAN)は、ヒトの毛細血管と同程度の 7 em幅の流路をすべての血球成分を含む血液(全血)100μLが通過する時間で定量し擬似毛細血管において血液が流れる様子を顕微鏡で拡大した映像でリアルに観察されることで、工学分野ではきっと優秀な精度の機器でしょう。しかしながら医学分野では有用性のない機器です。サラサラ博士はこれを用いて多くの一般人を騙しています。低レベルスコミに限らず一部の高名な医師でさえ騙されているのは実際にとても残念なことです。

先日、糖尿病治療薬(グリミクロン)がこのMC-FANを用いたデータで、白血球の通過を著しく良くしたから、サラサラだ・・・・なんて、糖尿病学会での発表ネタらしいが、サラサラ博士以上のQuackeryと思います。

世の中の大半の不勉強医者なら騙せるかもしれないが、私に言わせれば・・・「通過が良くなった?だからそれがどうなんだ?」という疑問だらけです。この薬を飲ませたら、糖尿病がどれくらい良くなったかという臨床データのほうがどんなに世の中に役立つか。

めずらしい機械を持っているので、とにかく何が何でもデータを出す。こんなインチキ研究に世の中の善人が騙されないことを切に望みます。

まあ、信じるものは救われる新興宗教とそっくりな「Quackery」ってな訳ですナ。


NEWS 

悪銭身に付かず!!!

“血液さらさら”の元締めは、予想通り“金銭どろどろ”でした。有名な“サラサラ博士”は公務員にもかかわらず血流測定バイトで副収入420万円、もらい処分 (産経新聞)

独立行政法人 食品総合研究所(茨城県つくば市)は、国家公務員法(職務専念義務)に違反したとして、“血液サラサラ博士”としてテレビや雑誌にたびたび登場していた同研究所の企画調整部チーム長(57歳)を停職一カ月の懲戒処分にした。菊池チーム長は勤務中に無断で、テレビ番組用や食品会社の依頼により血流測定を実施し、協力費として自分が主催する研究会に計約420万円を振り込ませていたという。かつて国家公務員だった菊池チーム長は依願退職したそうな。今後は善人を騙さないような研究をお願いしたい。

結論:サラサラ博士、実はお金にドロドロでした。


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