肥満症と代謝症候群
(高尿酸血症も含む)
2006.9

Topix:代謝症候群(メタボリックシンドローム)という恐ろしい病態を持つ日本人が増えてきました。肥満症、内臓肥満と関連疾患ですので少しだけ解説します。


話題のメタボリックシンドロームの話

(別名 シンドロームX = 死の四重奏 とも言われます)

かつて、1)リンゴ型肥満 2)糖尿病 3)高中性脂肪血症 4)高血圧症を合併するものに突然死などの重篤な病状を合併することが多く「シンドロームX」などと称されていた症候群です。 

こんな恐ろしげな名前がついていますが、動脈硬化症を引き起こす上記の危険因子の組み合わせのことを言います。これらが合併することにより動脈硬化症、例えば脳梗塞心筋梗塞閉塞性動脈硬化症になりやすく、また重症化しやすくなります。 この4つ全部持っている人はひと一倍、主治医の言うことを聞き、治療に励む必要があります。ひとつひとつはたいしたことがなくても4病が集まることで、一挙に動脈硬化のリスクが跳ね上がり命の危険が生じます。

最近の日本人は過食、運動不足によって 内臓脂肪が蓄積 し、高血圧症、高脂血症(コレステロールやトリグリセリドの高値)、糖尿病(インスリン抵抗性)など 複数の生活習慣病を合併 する人が増えています。このような状態を メタボリックシンドローム と呼び、高尿酸血症も合併しやすくなります。これらの病気はお互いが密接な関係をもって発生し、 多く合併するほど動脈硬化を促進 して致死的な脳梗塞や心筋梗塞などを起こしやすくなります。

最近の調査では血清尿酸値が高いことが動脈硬化の危険因子であることもわかってきています。高尿酸血症は痛風の予備軍と単純に考えると、もっと重大な合併症を見逃す恐れがあります。

診断基準

1)内臓脂肪の蓄積(腹囲:男性85cm以上、女性:90cm以上

かつ同時に

2)以下のa)b)c)のうち、2項目以上を満たす。

a)高中性脂肪か低HDL(TG 150mg/dl以上、HDL 40mg/dl以下

b)高血圧(130-85mmHg以上

c)高血糖(空腹時 110mg/dl以上

お気づきの方も居られると思いますが、肥満指数とかBMI、体脂肪といった指標が診断基準にありません。何故だか「腹囲」という項目に統一されたことで、果たして分かりやすくなったのか、分かりにくくなったのか不明です。

私が診断基準に付け加えるとしたら、以下を加えます。

高尿酸血症については血清尿酸値 8.0mg/dL を超えたら、飲水による尿量の確保(1日2リットル)と尿のアルカリ化(pH7以上に)を基本にして、薬物療法の併用が必要になります。これまでに痛風発作の経験があったり、尿路結石症の既往があるなら薬物療法は必須です。もし血清尿酸値 9.0mg/dL を超えたら、薬物療法を行わないなら生命の危険が起こりますので、専門医受診をお勧めします。

メタボリックシンドローム』と密接に関連しているタンパク質「アディポネクチン」が発見されました。

アディポネクチン」はなんと、脂肪細胞自身が分泌している善玉のアディポサイトカインだったのです。体にとって有用に働くこのアディポネクチンですが、標準的な体格の人の血液中には多く存在し、内臓脂肪が増加すると、反対にアディポネクチンは減少することが明らかになりました。どんな人でも、普段からタバコや血圧、血糖値の上昇、血中脂質、悪玉のアディポサイトカインなどによって血管が少しずつ傷つけられています。血液中を流れて全身を巡っているアディポネクチンは、血管が傷ついているところを見つけると、すばやく入り込んで修復します。さながら、体内の至るところで起きる不具合を治して回る、修理屋さんです。

実際、BMIに代表される肥満は多くの病気リスクをもたらします。ですから肥満を改善することは、生活習慣病の予防にもつながります。全く無視することもできませんので、敢えて、BMIのお話を付け加えます。 


肥満について

肥満とは単にみかけ体重が多いということではありません。身体の内部や外部にに余分な脂肪が多くついているということです。肥満度を表す指標として、BMIを用います。

BMI:ボディマスインデックス(Body Mass Index)

体重 (Kg)

BMI = ----------------------------------

身長(m)X 身長(m)

自分がどのくらい肥満しているのかを知るには、まず、ボディマスインデックス(Body Mass Index:BMI)を計算しましょう。BMIとは身長と体重から計算した肥満度の指標の一つで上の式で求めます。正常範囲は22〜24です。統計上BMIが22の人が病気になりにくく死亡率がひくいことが知られていますのでBMI=22のときの体重を理想体重または標準体重とします。その体重に対してあなたの体重が何%オーバーしているかということで肥満しているかを判定します。120%以上は明らかな肥満体です。

   標準体重(Kg)= 22 X身長(m)X身長(m)ですから

あなたの体重(Kg)-  標準体重(Kg)

肥満度(%)= ---------------------------------------

標準体重(Kg)

  になります。


体脂肪量の測定

実際に体内の脂肪の蓄積量をはかるにはどうすればよいのでしょうか?従来は、大きな水槽の中に身体を沈め浮力から体内の脂肪量を推測する体密度測定や肩甲骨下端部や腕の皮下脂肪つまんで皮下脂肪量を推測する方法などしがありませんでした。

最近、身体のインピーダンス(身体の抵抗量)を計りその結果、体内脂肪量を類推する方法が開発され一般的になりつつあります。 しかし、家庭用の簡易型は誤差も大きくあくまでもひとつの目安でしかありませんので数字に一喜一憂はしないでください。


体脂肪率:家庭用計測機

体脂肪率が成人病(生活習慣病)予防の指標の一つとして注目されているが、見た目で太っていても体脂肪率(体重にしめる脂肪の割合)が低ければ、成人病をそれほど心配する必要はない。若い女性のダイエットは、食べる量を極端に減らし、体も動かさない無理なダイエットをして、脂肪も筋肉も落ちてやつれ、その反動で食べて脂肪だけが戻るケースが多い。正しいダイエットとは、少なく食べて運動により筋肉を増やす減量方法である。家庭用体脂肪率測定機は、測定原理としては体に弱い電流を流し測定するものであり、オムロン社の体脂肪計は、両手でグリップを握るだけで測定できる。但し測定する時刻・状況(食事・運動など)によってデータが変わる(オムロン社のものでは3%前後)ので、昼食後2時間以上たった午後から入浴・夕食前、または夕食後2時間以上たった就寝前での測定を勧めている。従って測定誤差があるので、一挙一動せず、長い目でデータの推移を見る姿勢が大切である。

上腕型家庭用体脂肪計

体重計型体脂肪測定器

オムロン社の上腕型家庭用体脂肪計による肥満度判定表

     やせ    標準     軽度肥満   肥満

 男性 10%未満 10〜20% 20〜25% 25%以上

 女性 20%未満 20〜30% 30〜35% 35%以上

 

家庭用脂肪計測機として他には、タニタ社の脂肪計付ヘルスメーターがあります。

当医院では、インピーダンス測定から推測して、女性は体重計型、男性は上腕型の体脂肪計が好ましいと思います。ですが以下の理由から、男女とも上腕型の体脂肪計を用いています。

体重計型:これは乗るだけで計測できるものですが、皮膚病(水虫など)の感染の危険性のためこのコーナーではオムロン社のものを主体に説明抗菌の体脂肪装置とあっても、絶対感染をしないという意味ではありません。家族間での使用に止めるのが賢明でしょうか。

お間違えにならないように!


肥満の分類

1 体形による分類

りんご型(上半身型)洋なし型(下半身型)

一口に肥満といっても脂肪のつきかたにより上の2つにわけることができます。

ビール腹のようにお腹が大きい上半身型肥満(りんご型)と下半身デブ型の下半身型肥満(洋なし型)に分けられます。

動脈硬化症、心臓病などの成人病との関連がより深いのは上半身型の肥満です。

肥満の型にはウエスト(W)とヒップ(H)の比により  上半身型:W/H>0.8(女性)または>1.0(男性)

すなわちりんご型が危険なのです


2 脂肪分布による分類

内臓脂肪型(りんご型皮下脂肪型(洋なし型

脂肪が内臓組織に多くつく内臓脂肪型と皮下組織に脂肪がつく皮下脂肪型に分けることができます。

内臓脂肪型は心臓病や動脈硬化症などの成人病と関連が深く危険です。この内蔵型肥満は上半身型肥満の方によく見られますので注意が必要です。

内臓脂肪型(りんご型に多い=動脈硬化が進行し危険

皮下脂肪型(洋なし型に多い


3 その他の分類

原発性肥満と二次性肥満

肥満の95%は原発性肥満です。原発性肥満はやはり過食と運動不足が原因です。しかも肥満には恐ろしい側面がかくされているのです。

二次性(続発性)肥満はホルモン異常によっておこります。したがってホルモン治療によって改善されることがある。


肥満の合併症

高血圧     糖尿病    高脂血症

脳血管障害     夜間無呼吸症候群

動脈硬化症   心臓病    脂肪肝

胆石      月経異常   膝関節症

痛風

むしろ生活習慣病そのものといってもよいその結果死亡率が上昇します。例えば50%以上の肥満の人は死亡率は肥満していない人の2倍近くにも達します。


肥満の治療

1 食事療法

総カロリーを減らす:自分の肥満の原因を納得することまず、あなたの食行動を見直してください。食べていないのに肥るということはありえません!よく私は「水だけのんでも肥る」ということを耳にしますが、そんなことはありえません。

食事をゆっくりと:1回あたりの食事時間をたっぷりとる(30分以上かけてよく噛む)決めた場所決めた時間以外では食べない。TV、新聞を見ながら人と喋りながら食べない。夕食は午後8時までにすませる。お皿を一緒盛りにしない(個人ごとに分ける)。朝、昼、夜3食をできるだけ均等に食べる。決してやけ食いをしないことなど。

食事の内容:内臓脂肪がたまりやすい食事は、高脂肪食(脂っこいもの)、高ショ糖食(甘いもの)、高カロリー食(カロリーが高いもの、食べ過ぎ)、低繊維食(緑黄色野菜の不足)です。また、濃い味付けは塩分を摂りすぎるだけでなく、食欲をそそり、食べ過ぎを招きます。

バランスの良い食事と腹八分目。これがメタボリックシンドロームにならない秘訣です。
「百薬の長」とも呼ばれるアルコールですが、脂肪に変わりやすいのでとり過ぎは禁物です。また、おつまみには高カロリーのものが多いので、おつまみの品を工夫したり、食べ過ぎに注意しましょう。

食事内容について

基本的にはゆるやかな低カロリー・低脂肪食です。過度のカロリー制限をしても緩やかなカロリー制限にくらべエネルギー不足の割には減量効率は高くないという研究結果もあります。ゆるやかに気長にいきましょう。食物線維はしっかりとるようにしましょう。

(注意)

食事の具体的なカロリーなどについては糖尿病食のカロリー制限に似ています。ですから糖尿病食を参考にしてください。

(特殊な食品によるダイエットにも注意)

急激な過ぎた減量は、健康を害する場合があります。実際、アメリカでは20年程前に粗悪なプロテインダイエットが流行し、その結果、数十人が不整脈などにより突然死したということもあります。だいたい健康食品だけ食べて痩せるというのはナンセンスです。運動や食事療法と併用するならまだましですが、TVコマーシャルに莫大な宣伝費を使っているような痩せ薬は全てインチキか毒物です。

食事バランスを無視した行き過ぎのダイエット(トマトダイエット、炭水化物ダイエット、オレンジダイエットなどキリがありません)は生命の危険さえもあるのです。


2 運動療法

高脂血症の運動療法は糖尿病の運動療法に準じて行いましょう。

糖尿病における運動療法とひとつ違うことがあります。運動の始めは糖質が燃えてエネルギーを供給するのですが30分以上で皮下脂肪が優位に燃え出します。ですから、細切れに運動していても効率良く皮下脂肪は燃えません。1日の運動時間は1時間程度、1回の運動時間を30分以上にしましょう。

ウオーキングの勧め

健康づくりの基本動作

生活習慣病の予防の基本動作

運動療法の基本動作

『歩く』運動の正しい知識を身につけましょう!!


効果的な運動量      運動強度 運動時間

運動の頻度        目標心拍数 脈拍の測り方

心拍数の測り方      運動の種類 健康増進の基礎知識 

        

歩きやすい服装で・・・

動きやすく

汗をかいても良い服装で

靴は軽くて通気性の良いもの

そこが厚くて、滑りにくい、クッション性が高い

ジョギングシューズをすすめます。

小銭やタオル、ちり紙、身分証明書(連絡先)等を携帯すること大切です。

ポケットのある上着、又はウエストバックを用いましょう。

姿勢で『歩く』・・・速度が変わります。

あごを引き、背筋を伸ばし、腹を引き締めて、腰を伸ばして

歩幅を広げて・・・

膝を伸ばして足先をしっかり伸ばして着地・・・       

着地はかかとから つま先で地面を蹴り体を前に進める・・・


3 危ない民間療法

マスコミ、チラシなどを賑わすダイエット法や痩せる薬。毎年多くのものが出てきますが殆どはごく一時的な効果のものです。全然効果のないだけならともかく、健康を害するものが大半(100%近い)です。医者が推薦しているものの中にも、かなりいいかげんなものが多くみられます。口の上手い医者には要注意です。

漢方は副作用のかたまりです。中国製とかMade in China の表示があれば、使わない様にしましょう。ただし、あなたの命が大切ならではありますが・・・・

やせ薬

大半は効果のないものか以下のような危険なものです。

   

1 利尿剤・下剤 

(一時的に脱水状態になりますので体重は減りますが非健康的な方法です)

 

2 甲状腺ホルモン剤

  以前(というより現在でも)中国のやせ茶に含まれていたことがあった。中国の漢方はじめ健康食品には、日本で禁止されている薬剤、農薬など危険きわまりない。

(身体の代謝量を増加させ甲状腺機能亢進症またはバセドウ病状態になりますが将来取り返しのつかないホルモン関連の大病をひきおこします。)

3 覚醒剤

(食欲抑制効果をもつものがありますが依存性、中毒性が強く違法なものです。犯罪です。

美容サロン

低周波パルス

イオン刺激

海草、泥パックなど

これらは理論的な裏付けなどないものがほとんどです。


4  外科療法

おなかの脂肪を吸い出す手術、胃袋を縛る手術など数々ありますが、運が悪ければ手術後感染を引き起こし命取りになることもあります。また脂肪塞栓になって命を落とす人もいます。もし成功したとしても、生活を変えなければまた有害脂肪はすぐ貯まってきます。特別な場合を除き、お勧めはできません。


ブラウザの戻るボタンでお戻り下さい