花粉症について
2005.6


毎年のように、うっとうしいスギ花粉症の季節になりました。2005年はスギ花粉のあたり年でした。花粉症とは空中に飛散している植物の花粉を抗原として発症するアレルギー性疾患の総称です。近年注目されている疾患ですが、局所療法などの工夫でかなり症状を緩和する事は可能です。杉の花粉がディーゼルの排気ガスの影響を受けるとか、紫外線が悪いとかいろいろな噂がありますが実際わかっていないのが現状です。近年は、花粉が飛ぶとの予報がTV等で報道され日本人の10人に1〜2人は花粉症といわれまさに国民病です。

スギ花粉飛散量に影響すると考えられる因子・なぜ近年スギ花粉が多くなったのか

1.スギ花粉飛散の主役は樹齢20〜50年のスギである。

2.建築用木材として輸入木材が多用されるようになり,スギ材の使用が減少したため,スギの枝落としなどの手入れがされなくなって,花粉量が増加したと言われています。

3.スギ花粉飛散量に影響する気象スギの花芽分化期は7〜9月で,このころの気温が高いと,翌年の花芽の形成が多いと言われています。また、1日の日照時間が長いと花粉は飛び出しやすく、曇りゃ雨の日も花粉は飛ばないと言われます。飛散距離は気象条件が一定の場合,500m〜100kmくらい飛ぶらしく、100m以内ではほとんど落下しないという報告もあります。1日の空中花粉量は,10時頃から飛びはじめ,12〜14時ごろがピークで,16時以降はきわめて少ない。

いつまで続くのでしょうか

花粉飛散の季節が終われば症状は消失します。予後は良好ですが,毎年季節性に反復するので,季節前から予防的治療を開始したほうが良いでしょう。年中症状がある方ではスギ花粉かどうかの確認が必要です。ほかのアレルギーも考えられます。

スギ、スギと騒いでいますが、スギのあとにはヒノキ、稲科の植物の花粉が続きます。花粉症といえばスギが多いのですが、スギだけではないことも知っておきましょう。


花粉症の原因説

ひとことで花粉症といっていますが、これは主にスギ花粉のことを意味しています。スギは日本全国に植林されておりもっともポピュラーなものなのですが、花粉症を引き起こすものはスギにかぎらずヒノキ、カモガヤ、シラカンバなど五十種類以上もあります。それぞれの飛ぶ時期は季節、地域により様々です。ちなみに関西ではスギと同時期に六甲山系に多く植林されているオオバヤシャブシによる花粉症が多いようです。スギは昔から日本にあるのになぜ最近になって花粉症が流行するようになったのでしょうか?

それにはいくつかの理由が考えられます。

1 森林伐採説

太平洋戦争で多くの森林が伐採されたため終戦後全国的に建材になるスギの植林が行なわれました。これらのスギが今、樹齢40歳をこえ花が咲き花粉が大量に飛ぶ時期になったということが最大の原因でしょう。

2 大気汚染説

山の中の集落より都会や道路沿いに多く発生していることから花粉+大気汚染による窒素化合物などが関与している可能性あります。

3 食事原因説

食生活の変化:アレルギーを起こしやすい刺激物のとりすぎや脂肪のとり過ぎ(リノール酸など)によりアレルギー反応が起こりやすくなっている可能性。以上ような要因が重なり花粉症が大流行しているのではないかといわれています。


スギ花粉症の症状

花粉の粒子が比較的大きく,抗原としての接触部位が眼,鼻に多いため,眼ではかゆみ,結膜発赤,異物感,流涙などがみられます。眼の好発部位は外眼部.ときに視力の低下,飛蚊症をみることがあります。鼻では,かゆみ,くしゃみ,水性鼻漏,鼻閉が特徴で、また,咽頭のかゆみ,咳,顔面その他皮膚のかゆみ,腫脹,頭痛,集中力の低下,いらいら感などを訴えます。

花粉症の症状として次のものがあげられます。

眼の症状:

目のかゆみ、結膜発赤、異物感、涙目、ときに視力の低下や飛蚊症。

鼻の症状:

かゆみ、くしゃみ、水鼻、鼻づまり。

気管支の症状:

のどのかゆみ、咳や気管支喘息の症状がでることがありますが、花粉の粒子は比較的大きくたいてい鼻の粘膜に引っ掛かり気管支まで達することは少ないためその確率は低いようです。 さらに、これら局所症状のほかに頭痛、顔のほてり、全身倦怠感、さむけ、めまい、集中力の低下、いらいら感、動悸、しびれ、あくびの多発などが出現する場合もあります。


アレルギーの話

さて、アレルギーとはどんなものなのでしょう? 生物は外敵(細菌、ウイルスや毒素など)から身を守るシステムとして免疫というものがあります。免疫システムを構成するのが白血球などの免疫細胞です。免疫反応は、種々の細胞:外敵を食べる食細胞、外敵を破壊する物質(サイトカインなど)や血管透過性を増加させたり組織の腫脹すなわち炎症や発熱を引き起こす物質(ヒスタミンなどの化学伝達物質など)を放出する細胞、相手が外敵かどうかを判断し、情報を記憶したり他の免疫細胞に抗体(外敵を無力化するたんぱく質のひとつ)産生を促す細胞などの相互作用の上に成り立っています。この免疫システムが破綻して異物(これを抗原またはアレルゲンといいたんぱく質であることが多い)に対して引き起こされる過剰な免疫反応がアレルギー反応といえます。そしてアレルギー反応にはいくつかの種類があります。

1)蕁麻疹、花粉症などの急性のアレルギー反応

(原因が比較的はっきりしており抗原に接触するなり反応し、その消失とともに改善するようなもの)

2)アトピー性皮膚炎などの慢性に進行するもの

(原因:抗原がはっきりしないことが多い)

3)ショックを起こし命にかかわるような反応を起こすもの

(一部の薬剤性ショックなど)


花粉症の検査

一般的にはこの時期の特有な症状だけで診断が出来ます。

血液検査

1)白血球分類:好酸球が増加します(アレルギー反応に関わる白血球のひとつ)

2)IgE検査

アレルギー反応が起こっている場合に増加する免疫物質です。ただし何に対するアレルギーであるかまではわかりません。花粉症では正常のことも多いようです。

3)特異的IgE抗体

この検査が陽性であれば抗原つまりは原因物質が確定できます。しかしその種類は、動物の毛、ダニ、花粉、食品など何十種類にも及びますので狙いをつけて検査をする必要があります。1度の検査で十数種類が限度でしょう。

誘発反応

実際に抗原とおもわれるものを皮膚に張り付けて発赤するかをみたり、吸入してみて実際に症状の再現性を見る検査です。


花粉症対策

日常生活の注意点

1)なるべく花粉に接触しないように、外出時は帽子、マスク、メガネを使う。

出かける時間帯は早朝かタ方とし、できれば 無用な外出はさける。花粉情報をTV等でチェックし花粉の多い日は外出は控えましょう。

2)花粉を室内に持ち込まない

外出したら上衣を室外でよくはたく。帰宅時に必ず洗顔とうがいをする。窓や戸の開閉をなるぺく少なくする。室内をよく掃除をする。洗濯物は、花粉の少ない日に干す。取り込んだ洗濯物は振ったり、たたいたりして花粉を落とす。

3)睡眠を十分にとりストレスを避ける。

4)タバコ、アルコールなどの刺激物はひかえる。

食事について

ヒスタミン様物質を多く含む食品は避けましょう

ほうれん草、なす、トマト、そば、まつたけ、たけのこ、山芋、里いも、落花生、バナナ、キウイ、パイナップル、さんまたら、すずき、たこ、あさり、はまぐり、かに等の食品

脂肪、特にリノール酸のとり過ぎに注意しましょう。

リノール酸はサフラワー油、大豆油、コーン油、ゴマ油に多く含まれ動脈硬化を予防する良い面もあるのですがとり過ぎるとロイコトリエンという物質が体内に増えアレルギー反応がおこりやすくなります。


花粉症の治療

一般的な注意

花粉抗原の飛散季節には野外へのピクニックやゴルフその他外出を控える。外出時にはマスクをかけるのもよい。市販の花粉防除マスク(N95マスクを含む)はガーゼのみのものより有効です。雨の日以外は日中部屋の窓を閉めておいたほうがよく,風がなければ,夕方日照が弱くなってから窓や戸をあけて掃除をする。外出から帰ったら、衣服の花粉をはたき室内に花粉を持ち込まない。水道水で洗眼する。加えてフトンは干さない,叩かないこと。

局所療法

洗眼、点眼、点鼻治療アレルギー性結膜炎の点眼剤 インタール、フルメトロンなど各社アレルギー性鼻炎の点鼻剤 フルナーゼ、リノコート、トーク、コールタイジンなど各社これらの点眼、点鼻剤でかなり症状か改善できます。人によっては効果に差がありますので、色々試して自分にあった薬剤を見つけてもらいましょう。その他抗アレルギー薬(リザベン,ザジテン,アゼプチン,セルテクト,アレジオン)などは眼,鼻などの花粉症に予防的治療として季節前から投与することもあります。色々な種類のアレルギー剤がありますがこれも、人によって効果が違いますし、副作用の報告もありますので主治医にご相談下さい。

減感作療法

アレルゲンが明らかな場合に、ごく少量のアレルゲンを長期間にわたり皮内注射してゆき、体がそれに対し過敏反応しないように馴らしていく方法です。(通常1〜2年かかりますが、効能はそれほどあるとは思えません)

薬物治療

1)飲み薬

抗ヒスタミン薬:

即効性があり効果があります。組織細胞上のヒスタミンレセプターと結合してヒスタミンの作用を抑え、平滑筋収縮、血管透過性の亢進を抑えます。欠点としては眠気、だるさ感じることです。

抗アレルギー薬:

抗アレルギー薬は即効性がなく、2週間以上の連用で効果がでてきます。通常、眠気を催すことは少ないのですが抗ヒスタミン作用も有し眠気のくるタイプもあります。抗アレルギー薬は免疫細胞からのヒスタミン遊離抑制やロイコトリエンの産生、またその遊離抑制作用を有します。当院では「クラリチン」「アレジオン」などの眠気の少ないタイプがよく使われています。

ステロイド薬:

即効性があり作用は強力ですが副作用のでやすい欠点があります。抗免疫作用をもち、細胞膜安定化、血管透過性抑制、抗原侵入防止、化学伝達物質の安定化などをもたらします。症状が特にひどいときに短期間用いると効果的ですが、漫然投与はしないこと。

2)点鼻薬/点眼剤

局所の粘膜に直接作用します。種類としては飲み薬と同じものが用意されています。ステロイド系点鼻薬では副作用も飲み薬に比べ少なく使いやすくなっており効果も期待できるのでファーストチョイスになっています。

3) 予防投与:

花粉が飛び始め、鼻がムズムズしたら早めに花粉症の検査をし、アレルゲンを確かめた上、抗アレルギー剤を服用されることをお勧めします。予防的に服用したほうが、花粉症のシーズンを通じて比較的症状が軽くてすむ場合が多いようです。


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