熱中症の処置法
2005.9


熱中症は近頃の日本ではよく起こっています。直射日光下だけではなく、気温・湿度・風速が強く関与し、室内や木陰においても起こりうるので、患者が発生した際の対応として、普段より準備しておくべきです。
 スポーツ医学では、人体の熱収支に影響の大きい湿度、輻射熱、気温の 3つを取り入れた指標としてWBGT(湿球黒球温度)を用います。この乾温度、湿球温度、黒球温度の値を使って計算しています。 熱中症の事故は、急に暑くなったときに多く発生しています。梅雨の合間にとつぜん気温が上昇した日や梅雨明けの蒸し暑い日、合宿の第1日目などには事故が起こりやすいので注意が必要です。暑い環境での体温調節能力には、暑さへの馴れ(暑熱馴化)が関係しています。急に暑くなったときは運動を軽減し、暑さに馴れるまでの数日間は、短時間の軽い運動から徐々に増やしていくようにしましょう。体調が悪いとき体温調節機能も低下し、熱中症につながります。疲労、発熱、かぜ、下痢など、体調の悪いときには無理に運動しないようにしましょう。また、暑さへの耐性は個人によって大きな差がありますが、次のような人は暑さに弱いのでとくに注意が必要です。

1a)熱失神:

皮膚血管の拡張によって血圧が低下し、脳血流が減少しておこるもので、めまい、失神などがみられる。顔面蒼白となって、脈は速く・弱くなる。 


1b)熱疲労:

脱水による症状で、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などがみられる。
    対処法:涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分を補給すれば通常は回復します。足を高くし、手足を抹消から中心部に向けてマッサージするのも有効です。吐き気やおう吐などで水分補給できない場合は、病院で点滴を受ける必要があります。


2)熱けいれん:

大量に汗をかいたときに水だけしか補給しなかったため、血液中の塩分濃度が低下して、足、腕、腹部の筋肉に痛みをともなったけいれんがおこる。
    対処法:生理食塩水(0.9%)を補給すれば、通常は回復します。市販のスポーツドリンクはNaClが1〜2%に設定されているので、若干薄めた方がいいかもしれません。


3)熱射病:

体温の上昇によって中枢機能に異常をきたした状態。意識障害(反応が鈍い、言動がおかしい、意識がない)がおこり、死亡率が高い。
    対処法:死亡する可能性の高い緊急事態です。体を冷やしながら、集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ必要があります。いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右するので、現場での処置が重要です。体温を下げるには、水をかけたり濡れタオルを当てて扇ぐ方法、頚、脇の下、足の付けねなど太い血管のある部分に氷やアイスパックをあてる方法が効果的です。循環が悪い場合は、足を高くし、マッサージをします。

熱中症発生が予測される場合の対応:
 
救急・医療機関との連携:救急車による搬送と自家用車やタクシーによる搬送マニュアル
準備しておく物


[1]冷却剤
  (氷嚢、アイスパックなどと、冷水を作るために十分な量の氷)
[2] 送風器具
  (送風できるものならば、団扇、扇風機、服など、どのようなものでも可)
[3] 水 もしくは ゆるいお湯
  (可能ならば、霧吹きを用意し、その中に水を入れておく)
[4] 痙攣(ケイレン)の対処用に、塩分濃度0.9%の飲み物
  (例: 生理食塩水)
[5] スポーツ・ドリンク
  (塩分濃度0.1〜0.2%、糖分濃度3〜5%で、5〜15℃程度に冷やしたもの)
[6] 携帯電話
  (現場から、すぐに救急車を呼べるようにするため)

熱中症の予後:

熱中症にかかった者が、暑い環境での運動を再開するには、相当の日数を置く必要があります。どんなに症状が軽かったとしても、1週間程度。症状が重くなるにつれ、日数は増えていきます。詳しくはお医者さんと相談の上、当人の調子を鑑みながら、再開を決めることになります。

その間は、暑い環境での運動や、激しい運動は厳禁となります。十分に回復するまでの休息の日数をおいたうえ、涼しいところでの軽めの運動から開始し、徐々に運動負荷を上げていくということになると思います。



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