必須脂肪酸について
2005.7


必須脂肪酸(ω3系とω6系)について

1970年代にはリノール酸が血中コレステロールを下げるということで大人気でしたが、現在は油の摂り方が変わってきたので、今はω3系が絶対的に不足しています。実はリノール酸は善玉コレステロール・HDLも一緒に下げてしまうということが分かっています。言い換えますと、現代人の食生活はリノール酸のようなω6系が多過ぎることが別の問題を引き起こすことが証明され、食生活にはこの2種類(ω3系とω6系)のバランスが重要であるということも分かってきました。しかしながら私たちの体の細胞膜やホルモンをつくる原料であるところの必須脂肪酸はとても酸化されやすいので、変質油になりやすいのです。結果として、中でも安定性のいいω6系が多く摂られるようになった原因です。

ω3系はα-リノレン酸、EPA、DHAに代表され、とくにEPA(アイコサペンタエン酸)はイワシのような匂いがあります。これに対してω6系はリノール酸、γ-リノレン酸、ジホモγ-リノレン酸、アラキドン酸で比較的匂いは軽いのですが・・・・昔の『番傘』の特有の匂いがω6系の多価不飽和脂肪酸の酸化した匂いです。油絵の具に使われているのもこれで、直ぐ酸化して固まってしまうので乾性油という分類のされかたもあります。
必須脂肪酸は、人のからだが自ら作ることが出来ない脂質で、ビタミンF(FはFatの頭文字)と言われた時代もありましたが、1日に必要な量がビタミン類のようにミリグラムやマイクログラムのオーダーではなく、数グラムは必要な必須脂肪酸ですから微量栄養素としてのビタミンの仲間からは外れてしまいました。

ω6系脂肪酸が著しく過剰になると、体内で凝固機能が亢進し、炎症を起し、痴呆症、知的障害、前立腺肥大などの原因といわれています。


ω3系脂肪酸の必要量

ω3系脂肪酸は魚と野菜から摂るようにしましょう。

このω3系の必要量は週2回ほど『青魚』を食べれば十分だということになっています。青魚とは背の青い回遊魚のことで、イワシ、サバ、ニシン、ブリ、カツオ、マグロ、サケなどのおなじみの魚です。キャノーラオイル、クルミ、フラックスシード(亜麻の実)などにもω3系は含まれています。さらに血液を固まりにくくする働きがあるので、心臓病の多いアメリカではサプリメントとして取ることがあります。1日3グラム以上のω3系を取る場合は医師のチェックが必要だとFDA(アメリカ食品医薬品局)は注意を促しています。人によってはサラサラノの度を超して出血が多くなることが起り得ます。さらなる作用として中性脂肪を下げ、血圧を安定させて血管を健康にしてくれます。糖尿病のある人にはありがたいものですね。 その他ω3系の効用として必須脂肪酸のバランスを整え、健康な免疫反応のバランスを助けます。関節や軟骨の健康、美肌、健康な心臓機能、健全な中性脂肪値の維持、正常な心拍リズムの促進、血管保護、神経系や脳の機能促進、うつ、アレルギー、炎症を抑えるなどの多才な効能があります。

日本人はもともと油を多量に摂取する人種ではなく(月に1度あるかないか程度))、油といえば、ω3系脂肪酸(α−リノレン酸)を多く含む魚中心の生活でした。しかし、ここ数十年ほどで食生活の欧米化が加速し、ω6系脂肪酸(リノール酸)を多く含む食品の多用と魚中心の生活から肉類中心の生活となりました。
また、マーガリンやショートニングなどに含まれる脂肪酸であるトランス型脂肪酸の摂取の増加により、生活習慣病をはじめ、高コレステロール血症(これに続く、動脈硬化、心臓血管疾患、脳卒中など)、アレルギー・アトピーなど現代病の加速的増加をもたらしている要因となっています。
このため、心臓血管疾患や炎症、アレルギー、がんに対するω3系脂肪酸の効果が研究で明らかにされており、亜麻の実(亜麻仁)油を毎日スプーン1杯でも食すると、これらの予防に効果があるという学者もいます。

トランス型脂肪酸は何故普及したか


マーガリンやショートニングに含まれる主な脂肪酸は、トランス型脂肪酸です。しかし、天然に存在する油に含まれる脂肪酸はほぼすべてシス型の立体構造をしています。これに人工的に水素添加すると、トランス型という立体構造をもつ天然には存在しない油ができます。
この水素添加により、シス型脂肪酸の結合をトランス型に変形した脂肪酸を取り入れることで、融点が上がり、室温においても固形を維持できるようにしてあります。「水素添加作用」ですが、金属触媒を用いて、約260度の高温で処理すると、シス結合の約半分がトランス型にかわり、この過程で触媒に用いたニッケルやアルミなどの金属が混入することもあるようです。

水素添加された油は自然の油と異なり、すぐに腐ったり(酸化されたり)、嫌な臭いを出したりしないため、広く普及し、多くの加工食品(クッキー、クラッカー、アイスクリーム、パン、ケーキ、コーヒー用フレッシュ、レトルトカレーなど)に多量に使用されています。

ほとんどの人は1日にトランス型脂肪酸を体にいくらか入れていることになります。また、缶入りのベニバナ油やコーン油などの植物油も高温で処理されていると、その一部がトランス型脂肪酸に変性している可能性もあります。そのため、マーガリンを調理に用いて、加熱調理をすると、トランス型脂肪酸をさらに増加させる原因ともなります。もし、マーガリンを使用するなら、バターの使用が健康には良く、マーガリン(約10%のトランス型脂肪酸が含まれる)やショートニングをたくさん含む加工食品などを買わないことが健康維持には重要となるようです。しかし、1.で示した油を加熱したり、繰り返し利用で発生するトランス型脂肪酸はごくわずかな量のようで、普通の使用では問題とならないようです。

トランス型脂肪酸は体にどう悪いのか?

ところで、このトランス型脂肪酸が健康に良くない理由は、腸管を構成する細胞の細胞膜に取り込まれると、本来のシス型脂肪酸と立体構造が異なるため、細胞膜のところどころに隙間ができます(体内で処理しようとしてもできないため、シス型と同様に処理された結果、生じる障害)。

トランス型脂肪酸が体内に多い場合の腸壁には大きな分子を吸収することができる穴があいていると考えられ、これがアトピー・アレルギーなど最近の現代病(他には、糖尿病・脳梗塞など生活習慣病、クローン病(腸管壁の細胞が壊れている状態で、体に有害なものがどんどん入ってきて炎症を起こし、潰瘍ができている状態)、自律神経失調症など)を引き起こす要因の1つと考えられます。


ブラウザの戻るボタンでお戻り下さい