C型慢性肝炎について
2005.6


肝臓のお仕事

肝臓は腹部上方の右寄りにあり右の肺と接しており左葉と右葉に分かれ、体内の臓器の内でもっとも大きな臓器です。成人では1200g-1500gもあり体重の1/40-1/50を占めています。肝臓の働きとして、アルコールや食品添加物などを解毒する作用はよく知られています。しかしそれ以上に重要な働きがあること知らない人が多いようです。私たちの主な食物として、糖・脂肪・たんぱく質があります。肝臓はそれらを分解してエネルギー源として血液中へ供給したり、皮下脂肪としてたくわえる準備をする唯一の器官なのです。また、各種たんぱく質の合成や胆汁の産生、ビタミンや血液の貯蓄、尿素の合成などを行う一大化学工場といえます。さらに忘れてならないのが日頃飲んでいるお薬や健康食品の分解や解毒処理を一手に引き受けているのです。このように肝臓は私たちの体になくてはならない重要な臓器ですが、少々の病気では異常に気がつかないくらい頑丈にできています。肝臓病の代表である急性肝炎でも、かかりはじめは、食欲がない、悪心、嘔吐などの胃症状や、だるい、疲れやすい位の症状、また頭痛などかぜの症状に似ている状態で、なかなか肝臓が悪いとは気がつきません。

ウイルス性肝炎とその慢性化

日本では、肝炎の80パーセント以上がウイルスに起因します。ウイルス以外の原因としてはアルコールや薬物性肝炎があります。肝炎の原因になるウイルスは、A型、B型、C型、E型、D型の5種類が知られていますが、実際に日本で問題となるのはA型、B型、C型の3つです。

A型肝炎はウイルスに汚染した食物や水を介して経口的に感染します。時に流行することはありますが(新聞などで生ガキを食べて流行)その殆どは急性だけで慢性化せず、死亡する人はほとんどいません。

B型肝炎はその原因やウイルスの抗原、抗体に関してもほぼ解明されています。感染経路として輸血やウイルス保有者(キャリアー)から感染し、一部は慢性肝炎や劇症肝炎になることはありますが、その比率はC型肝炎に比べて低く、現在輸血ではほぼ完全に感染を押さえられていますし、母子感染も出産後にワクチンを投与することで防げるようになってきました。今後は減少の一途をたどると考えられます。

C型肝炎はやはり輸血や、血液て感染し発病することは解ってきましたが、まだウイルスそのものが不明な状態でC型肝炎ウイルスに罹ったかどうかを判定するC型肝炎ウイルス抗体検査(HCV検査)が行われるようになってからそんなに時間は経っていません。現在、C型肝炎ウイルスの定量や型別診断など検査法も進んでおりますが、抗体検査が主流でまだまだ十分な診断といえないのが現状です。

日本にはC型肝炎ウイルスを持っている人(HCVキャリアー)ですでに慢性の肝臓病で治療中の人が100〜120万人おられ、またHCVキャリアーでもそれを知らな人が約100万人いると言われています。また日本人成人の2〜3%がC型肝炎ウイルスをもっているといわれています。C型肝炎はかなりの率で慢性化する事が多く、自覚症状に乏しく10年〜30年という長い期間で徐々に進行し一部の人では肝硬変や肝ガンへと進行していく恐い病気なのです。C型肝炎は日本の肝ガン死亡患者(年間3万5000人)の80%を占めるとも言われています。

C型肝炎ウイルスの感染経路

輸血による感染が最も多く、感染全体の40%をしめます。しかし、1989年以降は供血者の血液にもHCV検査が行われるようになっており、その結果わが国の輸血後肝炎は大幅に減少しています。医療従事者の針事故、セックスが原因の感染、母から子への感染、家庭内での感染、針灸やある種の民間療法などが考えられ、その他に原因がよくわからないものも多数あります。しかし実際には夫婦感染、母子感染、家庭内感染の比率はB型肝炎に比べると極端に少なく(これはC型肝炎ではウイルス量が少ないため)また、蚊などの昆虫を介する感染も殆どないものと考えて良いでしょう。

家庭や仕事場での感染予防

C型肝炎の患者さんやHCVキャリアーのおられる家庭や仕事場では、食べ物や日常の生活で感染することはありませんので感染者は差別しないで下さい。なべ料理をつついても大丈夫です。箸に唾液がつくからつついて食べるとうつるのではないかと心配する人がいますが,全く心配はいりません。唾液ではうつりません。その他,一緒に風呂に入っても,茶わんを共用しても,洗濯を洗濯機の中で一緒にしてもかまいません。血液に接触すれることが唯一の感染の危険ですので、例えばカミソリ、歯ブラシ、くし、などは個人専用とした方がよいでしょう。

C型慢性肝炎を発見するには

C型肝炎のウイルスに感染すると、50〜80%の人が慢性肝炎になるといわれています。しかも、感染してもはじめのうちは症状がでないことが多いのです。とくにC型肝炎に特有な症状というものもありません。あえて症状をあげれば倦怠感、食欲不振、悪心、易疲労感などです。しかし、一度急性肝炎で発症しいったん治ったように見えて再び活動性を持って症状を現したり、10年から20年たって発症し、診断を受けた時にはもはや肝硬変になっていたということもめずらしくありません。したがって、健康診断や他の病気にかかったり、献血の時などに、偶然、血液検査でみつかる人がほとんどです。しかし、早期発見、早期治療が重要なのは他の疾患と同様です。とくに、人の生存になくてはならない肝臓のことですから、年に一度は血液検査を受けるようにすべきでしょう。

C型慢性肝炎の検査とは

肝細胞の破壊の度合いを調べるのに、トランスアミナーゼ(GOTとGPT)値があります。肝細胞がこわされると、細胞内から様々な酵素がでてきますが、その中でも重要なのがこのトランスアミナーゼです。健康な人でGPTは25〜35単位ですが、急性肝炎では500以上、慢性肝炎でも100以上になります。しかし、慢性肝炎が沈静化しているときには数値は正常のこともあり1回だけの検査では病態は解りません。

C型肝炎ウイルスの抗体(HCV抗体)が血中にみつかった人では、肝機能の異常がなくても年に1〜2回は検査が必要ですし、GPTの値が高い人の場合、2〜3 ヶ月に一度は肝機能検査を行う必要があります。

HCV陽性の人では肝硬変や肝ガンへの進行がもっとも恐ろしいので、超音波検査(エコー検査)を行い診断します。この超音波検査は痛くも痒くもありませんし、肝癌の早期発見には欠かすことが出来ない検査ですのでC型慢性肝炎の患者さんには3ヶ月に一度は調べます。

エコーにCT検査を併用することもありますが、慢性肝炎か肝硬変かどうかの判別やインターフェロン治療の前には肝臓の組織の診断が必要になりますので、肝生検や腹腔鏡検査等の際には入院して行う必要もあります。

C型慢性肝炎ウイルスセロタイプ

現在わかっているHCVウイルスのタイプはセロタイプと呼ばれ、6グループ28種類です。このうち、日本で見られるのは、主に1b・2a・2bというタイプです。日本人に最も多いタイプは1bで約70%を占めますが、このタイプにはインターフェロンの効果はあまり高くありません。インターフェロンが最も効果的なのは、2a(10%)・2b(20%)の順ですが、中でも2aは最もインターフェロンが効きやすいと言われています。

さらに、これらのタイプの中、ウイルス量が多い人と少ない人がおり、少ない方が、インターフェロンの効果が高くなります。同じタイプでも、ウイルス量でインターフェロンの治療効果は大きく変わります。

1bで高ウイルス量の場合、治癒率が非常に低く、たった8%の患者さんのみが治癒しています。ウイルス株は「野生株」から「変異株」へと変異度が大きくなるにつれて、だんだん弱くなって、インターフェロンが効きやすくなっています。

つまり、1bで高ウイルス量でも、ウイルスの量が極端に多いのでなければ、ウイルスの変異度が大きいほど、ウイルスは弱く、治療効果が高くなるというわけです。したがって、ウイルスの変異度が大きい場合は、インターフェロン療法を選択することになります。

C型慢性肝炎の治療

「なぜ慢性肝炎の治療が必要か」ということについて、お話ししますと、慢性活動性肝炎を放置すれば将来肝硬変・肝ガンへ進行する可能性が高いため、その進行を抑えるための治療が必要です。そのための治療としては、

強力ネオミノファーゲンシー注射等によって肝臓の中の炎症を抑え、病気の進行を抑える」という治療と、

インターフェロンのように病気の原因であるウイルスそのものをやっつけてしまう」という治療が主なものとして考えられています。インターフェロンの種類は、現在までにα型、β型、γ型の3種類が使われています。

日常生活の注意(栄養のバランスを考えた食餌療法、食後の安静、禁酒)は基本ですが、1992年3月よりインターフェロンαとインターフェロンβという注射が厚生省の認可を得て保険でC型慢性肝炎にも使われるようになり、すでに全国でも多くの患者さんに使われています。インターフェロンは高価で、また副作用も強いためその適応を考えて使用する必要がありますが30〜40%の著効例ではウイルスが消失し肝炎が治ったことも証明されています。

C型慢性肝炎の治療効果と予後

上記で述べてきたとおり、血液中のHCVウイルスの量ウイルスの型病状が治療効果に影響します。

ウイルスの量については、現在DNAプローブ法とPCR法による定量が保険で可能となっております。

DNAプローブ法では10メック以上の方では1割以下、数メックでは2〜3割の方が0.5メック以下の方では7〜8割の方がウイルスを完全に排除することができると期待できます。

PCR法では(アンプリコアモニター法)では、50Kコピー以下の方が0.5メック以下の方と量的にはほぼ同じと考えてよく、7〜8割の方がウイルスを完全に排除することができると期待できます。

ウイルスの型について、1b変異株(遺伝子の内NS5と呼ばれる部分の遺伝子の配列に変異のある変異型ではインターフェロンが効きやすく、変異のない野生型では効きにくい)の効果はややあると考えられます。

治療の結果は次の3種類に分かれます

1:ウイルスが完全に排除されて病気の進行が完全に止められる------30%
2:GOT、GPTが治療終了後も長期間にわたり、ほぼ正常化する---45%
3:数値は変わらないが将来の肝ガン発生率が低下する。

インターフェロンが無効の場合には、強力ネオミノファーゲンシー注射肝臓を護る治療で、ウイルスによる損傷を防ぎ、肝硬変や肝がんへの移行を遅らせる治療が行われます。たとえ、ウイルスが排除されなくても、肝炎の沈静化、肝線維化の抑制、肝がん発症の抑制などの効果があります。

C型肝炎の進行は非常に緩やかです。たとえば、65歳で軽い慢性肝炎の人であれば、肝ガンや肝硬変になるのは80歳以降です。そう考えると、副作用や肝臓の予備能力の問題もあるので、65歳以上の高年齢者にはあまりインターフェロン療法は勧められません。

2004年、状況が大きく変わりました。ペグインターフェロンとリバビリンの併用治療が保険適応となり、日本人に多いとされるジェノタイプ1bへの治療効果が期待されています。

経過中に肝ガンが見つかっても、早期であればいろいろな根治療法があります。早期発見に努めるべきです。


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